PROJECT

コラボレーションから思い描く、次世代の伝統工芸

300年以上の伝統を守り続ける「本家鍋島緞通」と諸富家具が展開する「レグナテック」がコラボレーション。伝統的な「蟹牡丹」柄をモチーフにした「SAGA COLLECTIVE」らしいモダンなテーブルと、異なる時間帯の佐賀の海をイメージした美しいウォールクロックが完成しました。

レグナテック株式会社 取締役ブランドマネージャー 樺島賢吾 さん

吉島伸一鍋島緞通株式会社 4代目技術継承者 吉島ひろ子 さん

吉島伸一鍋島緞通株式会社 5代目技術継承者 吉島夕莉子 さん

製作を振り返って

ひろ子さん:実は最初は、もう少し小さいサイズのテーブルを作る予定でしたが、製作を進めるなかでホテルや美術館など公共の場での使用を想定することになり、今のサイズに決まりました。テーブルの横幅は約2.2メートル。緞通のサイズは、畳1枚分の95cm×191cmが基本ですが、この緞通はテーブルに合わせて少し長めに仕上げています。

夕莉子さん:1帖の緞通を織るのに、通常は約1カ月かかります。それ以前に、緞通を織る際は糸を紡ぎ、染める作業から始めるので、半年以上の時間が必要となります。今回は製作に約5カ月間かかりました。

ひろ子さん:手織りなので機械のように寸分違わず仕上がるわけではありません。ゆがみや伸び縮みがあるため、できあがってみないと正確なサイズがわからない。見る角度によって色の印象が違うし、制作途中と完成品では雰囲気も違います。そうなると、テーブルの製作にも影響するので、「早くレグナテックさんにお渡ししなければ」と作業を急ぎました(笑)。

賢吾さん:製作途中に何度か作品を確認させていただき、色味や柄はおおよそ把握していました。でもやはり、完成すると雰囲気が変わりますね。完成した緞通を受け取った時、取り扱いにはかなり緊張しましたよ(笑)。
長さを図り、作品に合わせてフレームの色を調整するなどして製作を進めました。素材はオーク材を使用しています。色を塗り込むとベタっとした質感になりがちですが、レグナテックは木目を生かして色を入れ、木の質感を残す技術を得意としています。
緞通さんから作品が届いたら、すぐに加工に反映できるよう先にできる作業はあらかじめ準備しておくなど、工夫して進めました。

作品について

賢吾さん:鍋島さんの緞通は、通常は床に敷いたり鑑賞用として飾ったりするものですが、今回はテーブルの一部にデザインとして取り入れられていますね。

夕莉子さん:緞通は、正方形のマスに一目ずつ糸をくくり付けて織るので、細かい色の変化をつけることができます。今回の緞通では、中心の色を濃くして、外側に向かって薄くなるよう糸の色を変え、ぼわっと浮き上がるようなやさしいグラデーションを表現しました。

ひろ子さん:緞通は、献上品として重宝されてきた、佐賀独自の伝統工芸です。展示会にあたっては、伝統的な鍋島緞通の姿を伝えながらも、「SAGA COLLECTIVE」らしい新しい要素を取り入れたいと考えました。デザインの一部として機能していますが、ガラスの天板を取り外して従来の使い方をすることもできます。別の緞通を入れて、着せ替えみたいに楽しんでもいいですよね。

賢吾さん:谷口さんの和紙(名尾和紙)も入れてみたいですね。印象がガラリと変わりそうです。

夕莉子さん:300年前からの使われている伝統的な図案もありますが、今回はデザイナーの今井さんにお願いして、「蟹牡丹」という伝統柄をアレンジしていただきました。

賢吾さん:日本庭園の枯山水をイメージしているそうですよ。テーブルの上に食器や小物を置くと、ガラスの天板が透けて見えるので、枯山水の庭を俯瞰しながらデザインしているような気分になります。正式な呼び名はまだありませんが、何か名前をつけてもいいのかもしれませんね。今井さんは「『SAGA模様』かな?」だって(笑)。

ひろ子さん・夕莉子さん:いいですね!

夕莉子さん:緞通は、織り終わりに「房」ができるのが特徴です。この房は、手織りの証拠として古くから認識されていた、鍋島緞通の証でもあります。江戸時代は、房のないほうが上座、房のあるほうが下座というふうに、座る場所が決まっていたそうです。
また、緞通には毛の流れがあるので、どちらから見るかで印象がかなり変わります。ちなみに、このテーブルの波型の脚は緞通の房をイメージして、テーブル自体にも緞通の要素をと取り入れたデザインになっているんですよ。

賢吾さん:それを聞いてなかったら、間違って逆向きに緞通を入れてしまったかもしれません(笑)。テーブルの脚は、継ぎ目が見えないよう工夫して、4枚のパーツを組み合わせていることもポイントです。波型のカットを採用し、なめらかな曲線に仕上げることができました。

夕莉子さん:ウォールクロックは、佐賀の海をイメージして織り上げました。太陽の光を浴びて青々と輝く日中の海には、さわやかな水色。暮色に染まる日没の海には、茜色や深い青緑色のグラデーションを配しました。

ひろ子さん:普段は8本取りで織るのですが、このウォールクロックを織る時は糸の割合を少しずつ変えながら、ぼんやりとしたグラデーションをつけていきます。これが本当に細かい作業で……。織りながら色を調整していく必要があるので、図案はなく、製作しながら色の割合を判断します。そのため、制作には通常の倍以上の時間がかかりました。

賢吾さん:織り上げられた緞通に合わせてフレームを作り、見事なウォールクロックができあがりました。スマホやパソコンに支配された現代だからこそ、これからはこうしたプロダクトが増えると思いますよ。お気に入りの家具をそばに置く暮らしが、もっと大切にされる時代になるはずです。
木だけで時計をつくるとあまり汎用性が出ないものですが、緞通と一緒になることで、デザインにも幅が出ると思います。時計でもあり、タペストリーでもある。アートなプロダクトですよね。

次世代の伝統工芸に向けて

賢吾さん:私自身は、小学校から大学までずっと野球人生だったので、実は家業にはまったく興味がなかったんです。高校の教員になるために、教職の免許が取れる関東の大学に進学したのですが、野球で思うような結果が残せず、家業を継ごうと方向転換しました。家具やインテリアの業界にも、佐賀に帰ってきてからのめりこんだ感じです。それまでは本当にまったく興味がなく、朝から晩まで練習と筋トレ。とにかく野球漬けの日々でしたから(笑)。

ひろ子さん:うちの場合は、織り場が遊び場だったので「遊びながらいつの間にか技術が身に付いていた」という感覚です。娘の夕莉子が幼稚園生だった頃も、帰って来たら織り場に来て遊んでいましたね。その後、夕莉子が大学生3年生の時に、私が4代目を引き継ぐことになりました。

夕莉子さん:心理士を目指して大学院を受験しようとした矢先に、急に母に誘われて……(笑)。それから東京の美大に入学して、家業を継ぐための勉強をしました。一度外に出て社会人経験をしておきたかったので福岡で就職をして3年間一般企業で働き、佐賀に戻ってきました。「鍋島緞通」は生活の中の一部ではありましたが、母方の家の仕事だったので、まさか私が引き継ぐとは思っていませんでしたね。

ひろ子さん:だからこそ、枠にとらわれない自由な感覚を持てるんだと思います。家業しか知らなければ見方が偏ってしまいますが、社会に出ていろんな刺激を受けてきたから、自然と新しい考え方ができる。

夕莉子さん:「鍋島緞通」はもともとうち一軒だけの「家業」です。同業他社が多数いるわけではないので、周りの目をあまり気にせず、新しいことにチャレンジできる環境ではあります。

ひろ子さん:今までは私たちは「鍋島緞通」を「守る」ことしか考えていませんでしたが、夕莉子が参加したことで「広げる」ことも考えられるようになりました。今回「SAGA COLLECTIVE」に参加できたのも、夕莉子がこのプロジェクトのことを知って働きかけたのがきっかけでしたから。

賢吾さん:「家業=ブランド」である「鍋島緞通」に対して、私は家具の町・諸富で育ち、隣には木工が盛んな大川町があります。家具づくりに集中できる環境ではありますが、同業者だけで話していても、新しいアイデアやシナジーはなかなかうまれにくいものです。そうしたなかで、今回のような企画があれば、異業種の方々との意見交換を通して、日本のものづくりがもっと良くなるはずです。
それぞれの会社は、たとえ事業が違っていても、「良いライススタイルや感動を伝えたい」という思いは同じだと思うんです。だったら、一緒にやればいい。協業することで見えてくる世界が、きっとあるはずです。

ひろ子さん:そうですよね。一度やってみれば、次の課題も見えてきます。またコラボレーションしたり、それぞれの作品やプロダクトづくりに生かすことができますよね。

夕莉子さん:私自身、佐賀に帰ってきたばかりでしたが、「何かしなければ」という漠然とした思いはずっと抱えていました。敷物や展示品としてだけではなく、違う形でも「鍋島緞通」を知ってもらえないとこれからは生き残れないかもしれない。そう考えていたなかで、今回のコラボレーションで新しい発想や今までにない視点をもらえました。

賢吾さん:私が参加する展示会はいつも家具だけなので、実はデザイン的にそれほど変化が生まれにくいんです。そうしたなかでお客様にレグナテックを選んでいただくには、企業としての取り組みや信頼、認知度が重要になるので、私たちは「家具屋」ではなく「ライフスタイルを提案できる会社」でありたいと考えています。今回「SAGA COLLECTIVE」に参加したことは、その点でも大きな意義があったと思います。「いかにして商流をつくるか」という課題はありますが、いつかこのテーブルを使って、お客様に食事してもらえる日が来るといいですね。